【2026年改正】中小企業技術基盤強化税制|3年間の繰越控除を税理士が解説

【2026年改正】中小企業技術基盤強化税制|3年間の繰越控除を税理士が解説
新製品の開発や技術改良に取り組んでいる中小企業の経営者の皆様、研究開発費を活用した節税制度をご存じでしょうか?
研究開発に多額の費用をかけても、利益が少ない年度には法人税の税額控除を十分に活用できないという問題がありました。
そこで注目したいのが、2026年度税制改正による「中小企業技術基盤強化税制」の拡充です。
【結論】研究開発に係る税額控除のうち、控除上限を超えて使い切れなかった金額を、一定の条件のもとで3年間繰り越せるようになりました。
ただし、翌期以降に繰越控除を使うためには、研究開発費が過去3年間の平均額を超えるなどの条件があります。
研究開発費の管理と、将来の利益・法人税額を見据えた計画が重要です。
1.中小企業技術基盤強化税制とは?
中小企業技術基盤強化税制は、中小企業が新製品の開発や技術の改良などに取り組んだ場合、対象となる試験研究費の一定割合を法人税額から直接差し引ける制度です。
通常の経費処理による節税とは異なり、法人税そのものを減らせることが特徴です。
| 比較項目 | 通常の経費処理 | 研究開発税制 |
|---|---|---|
| 税金への影響 | 課税所得を減らす | 法人税額を直接減らす |
| 節税額の計算 | 経費額や適用税率による | 対象研究費に控除率を乗じる |
| 主な条件 | 損金算入の要件を満たすこと | 対象研究費・申告等の要件を満たすこと |
| 主なメリット | 課税所得の圧縮 | 追加的な法人税の軽減 |
例えば、対象となる研究開発費が1,000万円あり、控除率12%が適用される場合、税額控除の計算上の金額は120万円です。
ただし、実際に控除できる金額には法人税額に応じた上限があります。
2.2026年度税制改正で何が変わった?
今回の改正で特に重要なのが、税額控除を使い切れなかった場合の取扱いです。
控除しきれない税額を3年間繰り越せる制度が創設
従来は、研究開発費に基づいて計算した税額控除額が、その年度の控除上限を超えた場合、超過部分を翌期以降に利用することができませんでした。
改正後は、一定の条件を満たせば、控除上限を超えた部分について翌期以降3年間の繰越しが認められます。
| 比較項目 | 改正前 | 2026年度改正後 |
|---|---|---|
| 基本控除率 | 12% | 12% |
| 控除率の上乗せ | 一定条件で最大17% | 時限措置を3年間延長 |
| 基本控除上限 | 法人税額の25% | 法人税額の25% |
| 上限の上乗せ | 一定条件で最大35% | 時限措置を3年間延長 |
| 控除上限超過額の繰越し | 原則不可 | 一定条件で3年間可能 |
| 繰越控除の条件 | 該当制度なし | 研究開発費の増加等が必要 |
これにより、研究開発を行った年度に法人税額が少なくても、将来の事業年度で税額控除を活用できる可能性が広がりました。
3.どのような中小企業が対象になる?
法人については、青色申告書を提出する中小企業者等が対象です。
中小企業者は基本的に資本金1億円以下の法人ですが、大企業による支配関係などにより対象外となる場合があります。
対象となる研究開発の具体例
| 業種 | 研究開発の具体例 | 確認すべきポイント |
|---|---|---|
| 製造業 | 新製品の試作、材料や製造技術の改良 | 試作品、実験記録、材料費 |
| 食品製造業 | 新たな製造技術、保存技術の研究 | 試験の目的、試作記録 |
| IT・ソフトウェア業 | 新技術の開発、一定のデータ解析を利用した新サービスの研究 | 技術的な新規性、研究内容、従事者 |
| 医療機器関連企業 | 医療機器の性能改善、新たな技術の開発 | 研究計画、実験結果、費用区分 |
| 素材・化学関連企業 | 新素材の開発、性能改善の研究 | 研究材料、試験工程、成果記録 |
ただし、上記の取組みがすべて自動的に対象になるわけではありません。税法上の試験研究の定義を満たすか、個別に判断する必要があります。
4.対象となる研究開発費は?
研究開発税制では、単に会計上「研究開発費」という勘定科目で処理しているだけでは不十分です。
税法上の対象となる試験研究に該当し、費用の内容や研究への関係を説明できることが重要です。
| 費用項目 | 対象となる可能性 | 実務上の確認事項 |
|---|---|---|
| 研究用原材料費 | 対象となる可能性あり | 研究目的と使用実績 |
| 研究担当者の人件費 | 一定条件で対象 | 専門的知識と研究への専従性 |
| 試験・実験に要する経費 | 対象となる可能性あり | 研究との直接的な関係 |
| 外部への研究委託費 | 一定条件で対象 | 契約内容、研究成果、国内外の区分 |
| 通常の販売促進費 | 原則として対象外 | 研究ではなく営業活動ではないか |
| 一般的な設備更新費 | 取得費用をそのまま対象とすることはできない | 資産計上、償却、他制度との関係 |
研究担当者の給与についても、研究に少し関わっていれば全額対象になるというわけではありません。
研究業務への専従性や実際の職務内容を確認し、客観的に説明できる資料を整える必要があります。
5.具体例:研究開発費1,000万円、法人税額200万円の場合
ここでは、基本控除率12%、控除上限25%が適用される中小企業を想定します。
| 計算項目 | 金額・計算結果 |
|---|---|
| 対象研究開発費 | 1,000万円 |
| 適用控除率 | 12% |
| 計算上の税額控除額 | 120万円 |
| 調整前法人税額 | 200万円 |
| 税額控除上限 | 200万円×25%=50万円 |
| 当期に控除できる金額 | 50万円 |
| 翌期以降への繰越対象額 | 70万円 |
この例では、120万円の税額控除額が計算されますが、当期に使えるのは50万円です。
残りの70万円は、改正後の繰越制度により、一定の条件を満たせば翌期以降3年間に活用できる可能性があります。
なお、この計算例は制度の仕組みを説明するための簡略化したものです。実際の控除額は、適用年度の税額控除上限、他の税額控除制度との関係などによって異なります。
6.3年間の繰越控除には重要な条件がある
今回の改正で最も注意したいのは、繰り越した税額控除を将来必ず利用できるわけではないという点です。
繰越税額控除を適用する事業年度では、当期の試験研究費が、比較試験研究費を超えている必要があります。
比較試験研究費は、原則として過去3年間の試験研究費の平均額を基に計算します。
研究開発費が増加している場合
例えば、過去3年間の比較試験研究費が800万円で、当期の試験研究費が1,000万円の場合は、研究開発費の増加要件を満たす可能性があります。
研究開発費が減少している場合
一方、比較試験研究費が1,000万円で、当期の試験研究費が800万円の場合は、研究開発費の増加要件を満たしません。
この場合、その年度は繰越税額控除を利用できません。
ただし、繰越期間内であれば、翌期以降に要件を満たした年度で利用できる可能性があります。
重要なのは、研究開発費を継続的に把握し、3年間の繰越期限と合わせて管理することです。
7.研究開発費が少ない年度でも繰越控除を使える?
研究開発費が前年度より減少していても、必ずしも繰越控除が使えないわけではありません。
判定に用いるのは原則として過去3年間の比較試験研究費であり、単純な前年度比較ではないためです。
| 比較項目 | 金額 |
|---|---|
| 3期前の試験研究費 | 500万円 |
| 2期前の試験研究費 | 700万円 |
| 前期の試験研究費 | 1,000万円 |
| 過去3年間の平均 | 約733万円 |
| 当期の試験研究費 | 900万円 |
| 前期との比較 | 100万円減少 |
| 3年間平均との比較 | 約167万円増加 |
この例では前期より研究開発費が減っていますが、過去3年間の平均を上回っています。
したがって、研究開発費の増加という条件については満たす可能性があります。
実際の適用には、税法上の試験研究費の計算や他の要件も確認する必要があります。
8.医療機関・歯科医院にも関係する?
一般的な診療や歯科治療、医療機器の購入だけで、この税制の対象になるわけではありません。
一方、医療関連の新技術や医療機器の開発に取り組む企業などでは、検討する価値があります。
| 事業・取組み | 検討の方向性 |
|---|---|
| 一般的な歯科診療 | 通常の診療行為だけでは原則対象外 |
| 歯科用医療機器の新技術開発 | 研究内容によって対象となる可能性あり |
| 医療用ソフトウェアの研究開発 | 税法上の試験研究に該当するか確認 |
| 通常のCT・医療機器購入 | 購入しただけでは対象外 |
| 医療機器メーカーとの共同開発 | 研究主体、費用負担、契約内容を確認 |
特に、医療機器関連企業やヘルスケア分野の技術開発企業では、研究開発費を通常の事業経費と区分して管理することが重要です。
医療法人などについては、法人形態や税制上の適用要件を個別に確認する必要があります。
9.適用時に間違えやすい5つのポイント
① 研究開発費の全額が税額控除になるわけではない
対象となる試験研究費に控除率を乗じて計算し、さらに法人税額に応じた上限が適用されます。
② 赤字でも現金が還付される制度ではない
税額控除は法人税を軽減する制度です。繰越控除が可能でも、将来の税額や適用要件によっては利用できないことがあります。
③ 3年間の繰越しは無条件ではない
繰越控除を使う年度には、比較試験研究費を上回るなどの要件を満たす必要があります。
④ 他の研究開発税制との重複適用に注意
中小企業技術基盤強化税制と一般試験研究費に係る税額控除制度は、同じ年度に併用できません。設備投資に係る他の税制との重複にも注意が必要です。
⑤ 確定申告時の書類管理が重要
税額控除を受けるためには、申告書への記載と計算明細書の添付が必要です。
繰越控除については、控除を利用しない事業年度も含めて、繰越税額控除限度超過額に関する明細書を継続して添付する必要があります。
10.経営者が今からやるべきこと
- 研究開発費を洗い出す:原材料費、研究担当者の人件費、試験費用、外部委託費などを確認する。
- 研究記録を整理する:研究目的、実験内容、担当者、成果、使用した費用を記録する。
- 過去3年間の研究開発費を集計する:将来の繰越控除の適用可能性を確認する。
- 法人税額を試算する:当期に利用できる控除額と繰越対象額を把握する。
- 申告時の管理を徹底する:繰越額、発生年度、使用額、期限を管理する。
11.税理士として提案したい「次の一手」
研究開発税制は、決算直前に確認するだけでは十分に活用できない可能性があります。
当事務所では、研究開発費の管理と資金繰り・利益計画を一体で考えることが重要だと考えています。
提案① 研究開発費を月次で管理する
通常の製造原価や販売管理費と、税制上の試験研究費を区分して管理します。
会計ソフトの部門管理や補助科目を活用することで、決算時の集計負担を減らすことができます。
提案② 3年間の税額控除繰越管理表を作る
繰越額が発生した年度、残高、使用期限、翌期以降の見込法人税額を一覧化します。
決算時だけでなく、毎月の試算表確認時にも繰越控除の利用可能性を検討する仕組みが有効です。
提案③ 研究開発計画と利益計画を連動させる
研究開発費の増減と、将来の法人税額を見込むことで、繰越控除を使える可能性を事前に確認できます。
ただし、税額控除のためだけに不要な研究開発費を増やすことは合理的ではありません。事業上の必要性と投資効果を優先して判断することが重要です。
提案④ 他の支援制度も合わせて検討する
研究開発に伴う設備投資や人材育成がある場合は、補助金・助成金、設備投資税制などの活用可能性も確認します。
ただし、補助金で補填された研究費の取扱いや、他の税制との重複適用には注意が必要です。
12.まとめ|研究開発費の管理が将来の節税につながる
2026年度税制改正によって、中小企業技術基盤強化税制は、研究開発に取り組む中小企業にとってさらに活用しやすい制度となりました。
特に、控除上限を超えた税額控除を3年間繰り越せるようになったことは、研究開発に先行投資する企業にとって大きな変更点です。
一方で、繰越控除には研究開発費の増加要件や申告手続などの条件があります。
研究開発費を正しく把握し、将来の利益計画と組み合わせることが、制度を有効に活用するためのポイントです。
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参考資料・出典
- 国税庁「No.5444 中小企業技術基盤強化税制」
- 経済産業省「中小企業技術基盤強化税制を強化しました」
- 中小企業庁「中小企業向け研究開発税制」
- 国税庁「令和8年度税制改正のあらまし・研究開発税制の見直し」
※本記事は2026年10月16日時点の公表情報を基に作成しています。実際の適用については、法人の状況、研究開発の内容、適用事業年度等に応じて個別に確認する必要があります。











