【2026年診療報酬改定】クリニック・歯科医院の収益はどう変わる?

【2026年診療報酬改定】クリニック・歯科医院の収益はどう変わる?
2026年度(令和8年度)の診療報酬改定が実施されました。
クリニックや歯科医院の院長先生にとって気になるのは、「今回の改定で売上は増えるのか」「スタッフの給与を上げても利益は残るのか」という点ではないでしょうか。
今回の改定では、医療従事者の賃上げや物価上昇への対応に加え、外来医療、在宅医療、歯科診療などの評価が見直されています。
本記事では、厚生労働省の公表資料をもとに、医科・歯科クリニックの収益への影響と、院長先生が今から取り組むべき経営改善について、公認会計士・税理士の視点から解説します。
【結論】診療報酬改定で売上が増えても、利益が増えるとは限りません。
重要なのは、改定による診療収入の増減と、人件費・材料費・その他経費の増減を分けて確認することです。
特に、ベースアップ評価料など使途や算定要件が定められた項目は、単純な利益増加として考えないようにしましょう。
1.2026年診療報酬改定はなぜ重要なのか?
医療機関では、人件費、医療材料費、歯科材料費、光熱費、委託費など、さまざまな経費が経営を圧迫しています。
一般企業では価格改定によってコスト上昇を販売価格に転嫁できる場合があります。しかし、保険診療を中心とする医療機関では、診療報酬の点数が公的に定められているため、自由に価格を引き上げることはできません。
そのため、診療報酬改定は医療機関の経営に直接影響する重要な制度変更です。
今回の改定を機に、単に診療報酬の点数を確認するだけでなく、クリニック全体の収益構造を見直すことをおすすめします。
2.2026年度診療報酬改定の主なポイント
厚生労働省の令和8年度診療報酬改定資料では、賃上げ・物価対応、外来医療の機能分化、在宅医療、医療技術の評価、歯科医療の充実などが示されています。
| 改定分野 | 主な内容 | クリニック経営への影響 |
|---|---|---|
| 賃上げ対応 | ベースアップ評価料などの見直し | 給与改善と収入管理が必要 |
| 物価対応 | 物価上昇に対応する評価の新設・見直し | 増収額と経費増加額の比較が重要 |
| 外来医療 | 外来機能や診療体制に応じた評価の見直し | 診療科・算定項目によって影響が異なる |
| 在宅医療 | 質の高い在宅医療の推進 | 訪問診療の実施体制や算定要件の確認が必要 |
| 歯科医療 | 口腔機能、重症化予防、歯科診療のデジタル化等に関する評価の見直し | 診療内容・施設基準によって収入が変わる可能性 |
重要なのは、すべての医療機関で同じ割合の増収になるわけではないという点です。
3.医科クリニックの収益はどう変わる?
① 診療科によって影響が異なる
内科、整形外科、脳神経外科、小児科、皮膚科などでは、患者構成や算定する診療報酬項目が異なります。
例えば、慢性疾患の管理が中心の内科と、画像検査やリハビリテーションの比率が高いクリニックでは、改定による収益への影響は同じではありません。
そのため、まずは自院で算定している項目について、改定前後の点数と算定要件を確認する必要があります。
② 患者数と患者単価を分けて分析する
診療収入が増えた場合でも、患者数が増えたのか、患者1人当たりの診療単価が上がったのかによって、経営上の意味は異なります。
例えば、患者数が前年同月比5%減少し、患者単価が8%上昇した場合、両者だけを考慮すると診療収入は約2.6%増加します。
ただし、患者数の減少が続けば、将来的な収益悪化につながる可能性があります。
したがって、売上高だけでなく、患者数・患者単価・再診率なども併せて確認しましょう。
③ 検査・リハビリテーション・在宅医療の算定状況を確認する
画像検査、リハビリテーション、訪問診療などを行っているクリニックでは、関連する診療報酬項目と施設基準の確認が重要です。
特に、脳神経外科やリハビリテーションを行うクリニックでは、検査件数、リハビリテーション実施単位数、スタッフ配置、設備稼働率を組み合わせて分析することが有効です。
なお、診療報酬の算定は医学的必要性と法令・通知上の要件を満たすことが前提です。収益改善を目的とした不要な検査や診療を推奨するものではありません。
4.歯科医院の収益はどう変わる?
① 歯科外来物価対応料の新設
今回の改定では、物価上昇への対応として「歯科外来物価対応料」が新設されています。
| 算定区分 | 2026年度の点数 | 2027年6月以降の点数 |
|---|---|---|
| 初診時 | 3点 | 6点 |
| 再診時等 | 1点 | 2点 |
2027年6月以降の点数は、厚生労働省が公表している改定内容に基づくものです。実際の算定に当たっては、最新の告示・通知を確認してください。
例えば、月間の対象となる初診が100件、再診が1,000件と仮定すると、2026年度の点数では次のようになります。
初診:100件×3点×10円=3,000円
再診:1,000件×1点×10円=10,000円
合計:月額13,000円、12か月換算で156,000円
これは単純なモデル計算であり、実際の算定件数や算定要件により異なります。また、制度の適用開始前の月を含めて実際に年間156,000円を受け取れるという意味ではありません。
このように、物価対応の診療報酬が新設されても、材料費や人件費の上昇をすべて補えるとは限りません。
② 口腔機能や重症化予防に関する評価
今回の歯科診療報酬改定では、口腔疾患の重症化予防、口腔機能の発達や低下への対応、歯科診療のデジタル化なども見直しの対象となっています。
歯科医院では、既存の診療体制で算定できる項目と、追加の設備・研修・体制整備等が必要な項目を区別して検討することが大切です。
例えば、口腔機能の評価に必要な検査機器を導入する場合には、導入費用だけでなく、対象患者数、算定可能な件数、診療時間、スタッフ負担も確認しましょう。
③ メンテナンス患者と自費診療の経営分析
歯科医院では、診療報酬改定の影響だけでなく、継続来院患者数、予約キャンセル率、歯科衛生士の稼働状況、自費診療の割合なども収益を左右します。
保険診療について適正な算定を徹底するとともに、患者の希望と医学的適応を踏まえた自費診療の情報提供、予防管理の継続支援、予約管理の改善などを検討することが重要です。
5.ベースアップ評価料は利益ではなく賃上げとセットで考える
今回の改定では、医療従事者の賃上げに対応するため、ベースアップ評価料の仕組みが見直されています。
ここで注意したいのは、ベースアップ評価料による収入を、そのまま自由に使える利益として考えないことです。
対象職種、算定要件、届出、賃金改善の方法、報告義務などを確認し、制度に沿って運用する必要があります。
例えば、ベースアップ評価料による収入が年間120万円増えたとしても、それに対応して給与や事業主負担の社会保険料が増加すれば、利益への影響は限定的です。
また、賃上げは継続的な支出になりやすいため、診療報酬収入とのバランスを中長期で考える必要があります。
6.具体例|年商5,000万円の歯科医院では利益がどう変わる?
次の例は、診療報酬改定後の経営分析方法を説明するための仮定です。実際の改定率や平均的な歯科医院の数値を示すものではありません。
| 経営項目 | 改定前の年間金額 | 改定後の年間金額 | 増減額 |
|---|---|---|---|
| 医業収益 | 5,000万円 | 5,150万円 | +150万円 |
| 人件費 | 2,000万円 | 2,120万円 | +120万円 |
| 材料費・技工料 | 800万円 | 850万円 | +50万円 |
| その他経費 | 1,200万円 | 1,230万円 | +30万円 |
| 医業利益 | 1,000万円 | 950万円 | -50万円 |
この例では、年間売上が150万円増加しているにもかかわらず、利益は50万円減少しています。
つまり、「増収だから経営は改善している」とは判断できないのです。
さらに、借入金の元本返済は通常、損益計算書の経費にはなりません。利益が出ていても、借入返済や設備投資によって現金が減少する場合があります。
そのため、利益と現金預金の両方を確認することが重要です。
7.クリニック・歯科医院が注意したい3つのポイント
① 施設基準と届出の確認
新たな診療報酬項目や変更された項目の中には、施設基準や届出が必要なものがあります。
また、経過措置が終了した項目については、引き続き算定するための要件を満たしているか確認する必要があります。
現在の届出内容、実際の人員配置、研修履歴、設備、診療記録などを照合し、算定漏れや誤算定を防ぎましょう。
② 診療報酬の入金と資金繰り
診療報酬の増減が資金繰りに反映されるまでには、請求から入金までの時間差があります。
一方、給与や材料費の支払いは継続して発生します。
特に、賃上げや設備投資を予定しているクリニックでは、向こう6か月程度の資金繰り表を作成し、必要な運転資金を確認することをおすすめします。
③ 増収額だけでなく利益率を確認する
診療報酬改定の影響を分析する際は、前年同月と比較して、売上・利益・人件費率・材料費率などがどう変化したかを確認しましょう。
患者数や診療日数の変化も考慮することで、制度改定による影響と、医院固有の経営要因を区別しやすくなります。
8.今から確認したい経営指標
| 確認する指標 | 確認する内容 | 改善につなげる視点 |
|---|---|---|
| 医業収益 | 前年同月比・改定前後の増減 | 診療項目別の収益分析 |
| 患者数 | 新患・再診・継続患者の推移 | 予約枠と診療体制の改善 |
| 患者単価 | 患者1人当たりの診療収入 | 適正な診療報酬算定の確認 |
| 人件費率 | 人件費÷医業収益 | スタッフ配置と生産性の改善 |
| 材料費率 | 材料費÷医業収益 | 仕入価格・使用量の見直し |
| 医業利益率 | 医業利益÷医業収益 | 増収が利益につながっているか確認 |
| 現金預金 | 預金残高と月次増減 | 運転資金の確保 |
| 借入返済余力 | 返済額と営業キャッシュフロー等の関係 | 借入条件・設備投資計画の検討 |
9.税理士として提案する「次の一手」
診療報酬改定後の経営改善では、次の取り組みをおすすめします。
① 診療報酬改定の影響額を試算する
レセプトデータや診療実績をもとに、改定前後の診療報酬を比較します。
患者数が同じだった場合の増減額を計算すれば、診療報酬改定そのものの影響を把握しやすくなります。
② スタッフの賃上げと収益改善を一体で考える
人材確保のための賃上げは重要ですが、継続的に支払える給与水準であることも大切です。
ベースアップ評価料の算定状況と給与改善計画を確認し、スタッフの定着と経営の安定を両立させる方法を検討しましょう。
③ 予約・診療体制を改善する
歯科医院ではキャンセル率、リコール率、歯科衛生士の稼働率など、医科クリニックでは診療待ち時間、検査機器の稼働状況、リハビリテーションの実施状況などを分析します。
患者に必要な医療の質を維持しながら、無駄な待ち時間や空き枠を減らすことが重要です。
④ 会計データと診療データを組み合わせる
月次試算表だけでは、売上増減の原因が十分に分からないことがあります。
そこで、会計データに患者数、診療単価、診療科別・診療項目別の収益などを組み合わせて分析します。
これにより、単なる数字の報告ではなく、具体的な改善行動につなげやすくなります。
⑤ 資金繰りと設備投資を見直す
医療機器の更新やスタッフの増員を予定している場合には、診療報酬改定後の収益見通しを踏まえ、投資時期や借入条件を検討します。
設備投資による増収効果だけでなく、減価償却費、保守費用、借入返済額まで含めた判断が必要です。
10.まとめ|診療報酬改定後は「売上・利益・現金」を確認
2026年度の診療報酬改定では、賃上げや物価上昇への対応を含むさまざまな見直しが行われています。
ただし、すべてのクリニック・歯科医院が同じように増収になるわけではありません。
院長先生に確認していただきたいのは、次の3点です。
- 売上:診療報酬改定によって実際に収入が増えたか
- 利益:人件費・材料費などの増加を差し引いて利益が残っているか
- 現金:借入返済や設備投資を行っても資金繰りに余裕があるか
診療報酬改定を単なる制度変更として終わらせず、自院の経営を見直す機会にすることが大切です。
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参考資料・出典
※本記事は2026年10月18日時点で確認できる厚生労働省の公表資料に基づいて作成しています。診療報酬の算定可否は、最新の告示・通知・疑義解釈および個別の施設基準等によって判断してください。経営数値の具体例は説明用の仮定であり、実際の医療機関の平均値や収益予測ではありません。










